白と黒の神話
「でも、この感じじゃ誰もいないでしょう」

「それくらいわかっている」


 カルロスの声は苛々したような響きも含んでいる。その彼をなだめるような口調でウィアは意見しているのだった。


「でしたら、別の方法を考えませんと。ここに姫君がおられたのは間違いないでしょう」

「そうよ。これがあったのが証拠だわ。でも、ここにはいらっしゃらない」


 セシリアの焦ったような声が壁にあたりエコーが返ってきている。そんな彼女をなだめるようなウィアの声が響いている。


「では、一度もどりませんか。宿で考えた方がいいでしょう」


 ウィアのその言葉に反対する者がいるはずもない。これ以上ここにいることは無駄だと誰もが感じていたのだ。そして、ルディアに戻ろうとした時、ウィアの顔色がどことなく悪いことにカルロスは気がついていた。


「ウィア、どうしたんだ」

「別に、何でもありません」
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