モラルハザード
あの下のゴミゴミした場所に、私はずっといたんだ。
こんな世界があることを下にいた時は知らなかったし
それで満足していたんだ。
でも知ってしまった以上、もうあの下には戻りたくない。
マンダリンホテルでのパーティで感じたあの感情がよみがえってきた。
この生活を絶対に手放したくない…
「パパ、ありがとう、また連れてってね」
向日葵がそう言って、陽介の頬にキスをした。
「来年も来ような、向日葵はなんて親孝行な娘なんやろう」
目尻を下げた陽介が向日葵を抱きしめ、二人で微笑み合っていた。
なぜ───
私はこんな幸せな光景をみながら、こんなに不安になるのだろう。
この幸せは、本当に続くのだろうか…
押し寄せる不安の波はどんどん大きくなっていく。