モラルハザード
「あの、絶対に返しますので、今日のところはこれで勘弁して下さい」
陽介は財布から3万ばかりを出し、大田に手渡そうとした。
「こんな端金(はしたがね)で何とかなると思ってるのか。
わかってるのか、森川、おまえが金を返さないから
俺が紹介した取引先の会社はこの間、倒産したんだぞ」
太田は陽介をつかんだまま離さない。
「そこの社長は今も寝込んだまんまなんだ。
息子は大学を辞めた。奥さんは借金のために昼、夜パートに出て働いてる。
娘はどうなったか、わかるか。
風俗に行ったんだぞ、借金のためにだ。全部、おまえが返さない金のせいで」
太田はそう言って泣き出した。