モラルハザード


「…俺はええわ…斗夢と二人で行っておいでや」


「…そう、わかった。じゃ、斗夢とちょっと出かけていい?」


掛け出るように玄関を出て

私は斗夢の手をひいて、電車に乗った。

千葉の実家に行くことにしたのだ。


目的はあった。

当面のお金を都合してもらうため…


「ばっばとじっじに会いに行こうね」

電車の中で、斗夢は大人しくしていた。

その横顔に成長を感じる。



先月からプリでは、今までの母子密着の「乳児クラス」から

母子分離の「幼児クラス」に移行した。

今までとは違い、子供たちだけで、母親と離れてレッスンする。

最初の日のレッスンはみんな涙の大合唱だった。

でも、斗夢だけは、最初の日から、泣くこともなく

私にバイバイをしてレッスンを受けた。


「きちんと愛情を注がれてるから、離れても安心して泣かないんですよ」


終わってから、担当の先生にそう言われた時は

自分の子育てに満点をもらったような気になった。



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