モラルハザード


「杏子、あなた、まさかこのまま亮太さんと別れるなんてないでしょうね」

母が小声で聞いてきた。

まさか、あるわけない。

亮太が、あっさり迎えにきたら、帰るつもりはあるのに。

もちろん、長野に一緒に行く気はないが、単身赴任という選択肢がある。

亮太はしばらく長野で暮らし

私はこちらで、お受験を成功させ、莉伊佐と聖英ライフを楽しむ。

簡単な話なのだ。

「離婚」など絶対に考えていない。

聖英受験において離婚なんてあってはならない。

私はそんなバカじゃない。


「お母さん、変な心配しないで。ちょっと実家で頭を冷やしているだけ。

今日もお教室のママの会があるから、どうせ莉伊佐を預けないといけなかったし

今週中には帰るつもりよ」


2週間も実家にいると母の機嫌も悪いし、そろそろ帰ろうと思っていた。


「莉伊佐、もう少ししたら、パパが迎えに来てくれるからね

そしたら、おうち帰ろうね」


莉伊佐の小さな指と指きりをし、代官山のレストランへと向かった。
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