モラルハザード
代官山のフレンチレストランは、駅から少し離れた住宅街にある
隠れ家的なお店だった。静かな街並みが都内の喧騒を忘れさせる。
店に入ると、店内はヴィンテージウッドの床板とシャンデリアという
アンティークな雰囲気も私の心を落ち着かせてくれた。
「杏子さん、迷わなかった?ここ、少し分かりにくかったでしょ?」
店内に入り、所在なくしている私に薫さんが声をかけてくれた。
「ええ、大丈夫だったわよ。代官山の住宅街にこんな素敵なお店があったのね」
「そうなの、素敵でしょ。知る人ぞ知るお店なのよ、ね、杏子さん、桜庭さまを
ご紹介するからいらして」
薫さんの後をついて歩く私の心は弾んでいた。