モラルハザード
お互い不意打ちでしばらく見つめたままになった。
「…杏子、何か忘れ物でもあったのか?」
3週間以上も家を空けていたのに
まるでついそこまで買い物に出かけてちょっと戻ってきたような
言い方の亮太に苛立ちを感じた。
「亮太こそ、どうしたの?今日は仕事じゃないの?」
「来月の移動に備えて、まとめて有給をとって準備をしてるんだ」
亮太は、そう言うとソファーにどかっと腰をかけ
何事もなかったようにテレビのスィッチを入れた。
まとめての休みがあるなら、なぜ、私たちを迎えに来ないの?
そういう呑気なところに心底腹が立つの。
その言葉を飲み込み、ぎゅっと唇をかんだ。
私たちは、いろんなことを話さないといけないはずだった。