モラルハザード
思い返すといつもこうだったような気がする。
肝心なことには触れず、当たり障りのない話だけを
引き出して話していた。
それは結婚の時も、莉伊佐を妊娠した時も
二人目に男子をと嘱望されていることを気に病んでいた時も。
いつもキリキリと心を刻まれるように悩んでいたのは私。
亮太はいつもこうして我関せずで、ただ黙って見ているだけだった。
「ね、来月から、私たちどうしたらいいのかしら?」
「どうしたらって、杏子の好きなようにすればいい」
「何それ?どうでもいいって言ってるように聞こえる」
「…別にそうは言ってない。でも、長野にはついて来ないつもりなんだろ」
「ええ、その結論は変えられない…
何度も言ってるように莉伊佐には人生の最初のチャンスが訪れているの」