モラルハザード
しかし、イライラする原因はもうひとつあった。
先週、亮太の弟夫婦のところに男の子が生まれたのだ。
高畠の両親は、高畠家の後継ぎが出来たと密かに喜んでいるらしい。
──高畠病院の後継ぎは、長男夫婦の子供でなくてもいいわよね
だって男の子が生まれないんだもの──
お義母さんの声がどこから聞こえてくる。
どうして?なんで?私だけ上手くいかないの?
私はこんなに一生懸命にやっているのに…
あれから、家に戻った私だが、家事などする気力もない。
ふらふらとしながら、戸棚に置いてあるワインを取り出し
グラスに注いだ。
莉伊佐はリビングで一日中、ビデオを見ている。
おもちゃも出しっぱなしで、朝からパジャマのままだ。
もう、なんだかどうでもよくなった。
聖英受験も、高畠医院も何もかも。
「私の居場所なんてどこにもない」
ワインを次から次へ注ぎ、浴びるように飲みながら私はそうつぶやいた。