モラルハザード
「早かったんだね、レッスンの後、先生につかまっちゃって
今になっちゃった」
ペロッと舌を出して、真琴の席の横に立つのは
みっこちゃんこと田山美貴子。
「みっこちゃん、私たちもさっき来たとこだよ」
美貴子が座れるように、横の席に置いていた紙袋を
どかしながら真琴が答えた。
「あれ、真琴ちゃん、その紙袋、なんかいいにおいがするよ」
美津子は紙袋に鼻を近づけた。
「そう、さっきから、甘い香りがするなと思ってたのよ」
斜向かいの杏子もうなづく。
「実は、クッキーを焼いて来たの。みんなにプレゼントしようと思って」
真琴は、紙袋の中にあるきれいにラッピングされたクッキーの包みをひとつ
取り出し、二人に見せた。
「すごい」と美貴子が明るい声をあげ
「まぁ」と杏子が意外そうな顔した。
このプリスクールのママたちのバースディパーティのお返しのプレゼントが、手作りクッキーだったのは、後にも先にも真琴だけだろう。