モラルハザード
「さ、まず、お飲み物をいただきましょう」
その表情にまったく気が着かない奈美は
さっと手をあげウエイターを呼んだ。
ウエイターに飲み物の指示をしている間、向かいに座る真琴と美貴子は、何やら小声で話しをしている。
「どうしたの?」
と奈美が尋ねると、「何でもないわ」と真琴が答えた後、飲み物とケーキが運ばれてきた。
『おめでとう 真琴ちゃん』と書かれたケーキは真琴の目の前に
置かれ、シャンパンと子供用にとジュースが並ぶ。
そこへ、薫が滑り込むように入ってきた。
「薫さんたら、遅いわよ」
奈美が笑顔でたしなむように、薫に声をかける。
「ごめんなさいね、ちょっと込み入った電話があって」
と、息子の陽太と一番端の席に座った。