モラルハザード
「小宮山薫、詐欺容疑で逮捕する。」
逮捕状をつきつけられているのは、テーブルの端にいる薫だった。
「私は、何もしていないの、私は山下と桜庭に騙されたのーーー」
そういいながら、泣き叫ぶ薫を警察は連れて行った。
陽太は驚いて泣くのも忘れている。
その陽太を婦人の警官が抱いて連れ去った。
テーブルが、いや、カフェ全体が、今、目の前で起こったことが
信じられず、戸惑いに包まれ異様な雰囲気となった。
美貴子が「…信じられない…」と漏らすと、テーブルにいた
他のママたちも、「何があったの?」と涙声になったり
「何でこんなことに」とすすり泣くママもいた。
特に口もきけずに茫然としているのは、奈美、杏子、真琴だった。
3人の脳裏に浮かんだのは、それぞれ何だったのだろう。
─あれは、もしかしたら、私だったかもしれない
そうでも思っているのだろうか…
ぶるぶると震えが止まらない様子で、3人ともその場でかたまっていた。