モラルハザード
エピローグ
「真琴さん、真琴さん」
階段の下から呼ぶ声が聞こえる。
私は大きなお腹を抱え、どっこらしょと、斗夢の手をひいて
二階からゆっくり下りる。
「まぁ、何してはったん?あのね、真琴さん、お産は病気やないんやで。
そんなんして、子供と寝てばっかりしてはったら
お産の時にしんどい思いしはるで。なるべく、体動かしはらな」
「ええ、そうですね、お義母さん」
階段を下りるまで、早口の関西弁でしゃべる姑を今日もやり過ごす。
「おばあちゃん」
先に下に下りた斗夢が姑に抱きついた。
「ママをいじめちゃダメ」
「斗夢ちゃん、おばあちゃん、ママをいじめてないねんよ。
ママのこと思って言ってるんやよ」
さっきまでとはまったく違う声色の姑の目尻は下がっている。
「おばあちゃん、ママと公園いってくる」
「ああ、そうか、ほな気をつけていっておいでや」
孫には甘い姑は、斗夢の言うことなら何でも聞き入れる。
こうして、斗夢に助けられ、私は何とかやっている。