モラルハザード
「ばーいばーい」
夕暮れになると、公園で遊んだ皆は、一斉に帰える。
皆と別れ、別の道に入ったところで、私を呼ぶ声に気が付いた。
「とむくんママ、忘れものだよ」
あいはらとむと書かれたスコップを持って、追いかけてきたのは
こうくんママだった。
こうくんママは、ここのママ友の中でちょっと浮いた存在。
ユニクロであふれるママ友の中で、ユニクロなんて全く着ずに
おしゃれに気をつかい、言葉もここの言葉じゃなかった。
「あ、こうくんママ、ありがとう、わざわざごめんね。
ほら、斗夢も、こうくんにありがとうってお礼言いなさい」
スコップを受け取り、斗夢は「ありがとう、こうちゃん」と大きな声で言った。
「とむくんは、賢いよね~、やっぱり、東京から来た子は違うわ」
そう言って、髪をかきあげる指先には、いつもネイルが施されている。
私の視線がネイルに向いているのを気が付いたこうくんママは
両手の指を私に見せた。
「これね、セルフネイルなの。この辺、ネイルサロンなんてないからさ。
自分でやってるの」
「へぇ~、上手ね」
「あ、今度、よかったらやってあげるよ。とむくんママって、なんかいつもさりげなく
おしゃれだよね、あ、このスカート、ロンハーマンでしょ」
「あ、うん…」
向こうにいるときに見栄をはって買ったものだ。
ここに来てから、自分の着るものはなるべく買わないようにして
持っているものでなんとかしている。
「やっぱり!東京で買ったんだね。素敵、素敵」
きゃきゃ、言いながら話すこうくんママは、なんだかまるで昔の私のようだ。