モラルハザード
「あれは、向日葵ちゃんが押したからでしょ。
だって莉伊佐ちゃん、レッスン中に泣くような子じゃないもの」
薫さんがそう続けて、ベビーカーの莉伊佐に微笑みかけた。
私はやっと自分の理解者にめぐりあえたようだった。
そして、その理解者の薫さんにすべてをぶちまけてしまいたい衝動にかられた。
向日葵ちゃんが普段から乱暴でどんなに目に余るか、奈美がそれを何も注意せずに
野放ししていて、どんなにストレスがたまっているか。
でも、次に出た私の言葉はそんな想いと裏腹な言葉だった。
「でも、莉伊佐も泣き虫なの。ちょっとしたことで泣くから困っちゃう」