モラルハザード
「ありがとう、薫さん。私、今日のレッスンで、ちょっと落ち込んじゃってたの」
本当は向日葵ちゃんが押したことが原因だと言いたかったけど。
「わかるわ。でも落ち込まなくていいのよ。莉伊佐ちゃんは悪くないし」
なんとなく薫さんの言い方には、何か含んでいるものを感じた。
「ねぇ、杏子さん、今度、ゆっくりお茶でもしない?」
それは、私が言いたかった言葉だった。
「そうね、薫さん、お茶しましょ。いつにする?どこにする?」
弾むように私が答えた頃、駅に着いた。