蜜愛シンドローム ~ Trap of Masato ~
男性は30代半ばだろうか、ウェーブのかかった黒髪を無造作に後ろに流し、肌は少し浅黒く、細身の黒いスーツを身に着けている。
雅人ほどではないがそれなりに整った顔をしており、イケメンの部類に入るだろう。
男性は絢乃に正面の椅子に座るよう手で示し、自身も腰かけた。
「僕は経営企画室長をしている大塚です。よろしくお願いします」
「あ、はい。こちらこそ、よろしくお願い致します」
「事情は上から聞いております。北條役員のご婚約者様と聞いておりますが、それを表に出すと仕事がやり辛いかと思いますので、あまり表向きにされない方が良いかと思いますが、いかがでしょうか?」
大塚の言葉に、絢乃は内心で軽く息を飲んだ。
・・・そういえば、あまり考えていなかったが、自分は雅人の婚約者として北條商事で働くことになる。
自分がそういう目で見られるのだ、ということは全く意識していなかった。
絢乃は大塚にこくりと頷いた。
「はい。一社員として来ておりますので、普通に部下として接して頂ければと思います」
「よかった。・・・ではこれから、出退勤と館内について説明しますね。このフロアは・・・」