蜜愛シンドローム ~ Trap of Masato ~
「・・・・・・・・・・・・」
絢乃は目を見開き、雅人を凝視していた。
───信じられない。
雅人が北條財閥の御曹司であること。
来年の夏に北條商事の社長になる予定であること。
そしてその前段階として、一か月後に取締役になる予定であること。
取締役になるために、『婚約者』を立てる必要があること。
そして今日の縁談はそのラストチャンスだったのだが、それを絢乃がブチ壊しにしたのだということ。
一通り聞き終わった後。
絢乃は震える唇を開き、言った。
「あ、あの・・・」
「・・・なんだ?」
「わ、私以外に・・・その、婚約者になりそうな人は、いないのでしょうか?」
絢乃は恐る恐る言ってみた。
もちろん償いたいという気持ちはあるが、自分にそんな大役が務まるとはとても思えない。
雅人は優雅な仕草でコーヒーを一口飲み、軽く首を振った。