蜜愛シンドローム ~ Trap of Masato ~
2.もう帰さない
翌日の14:00。
絢乃はICカードとファイルを手に、役員室へ続く廊下を歩いていた。
10分ほど前、大塚に呼ばれた絢乃は、ICカードとともに薄いファイルを渡された。
『北條役員から、このファイルを部屋まで持ってきてほしいと連絡があってね。行ってきてくれないかな、秋月さん?』
わかりました、と絢乃は頷き、ファイルとICカードを手に取った。
絢乃はまだ、役員室に入ったことはない。
役員室は役員ごとに一部屋ずつ割り当てられており、そのエリアに入るためには専用のゲートをくぐる必要がある。
絢乃はICカードでゲートをくぐり、役員室エリアの中に入った。
役員室エリアは茶色の絨毯が廊下に敷かれ、等間隔に重厚な黒木の扉が並んでいる。
絢乃は雅人の名前が書かれた扉の前に立ち、こくりと息を飲んだ。
・・・さすがに役員エリアともなると、格調高い雰囲気だ。
絢乃は背筋を伸ばし、コンコンと扉をノックした。