蜜愛シンドローム ~ Trap of Masato ~
───あの日。
絢乃にキスした日。
休憩スペースに泣きながら入ってきた絢乃を見、雅人は心臓が止まるような思いがした。
いつも後ろで纏められている綺麗な黒髪は乱れ、目には涙を浮かべている。
・・・一体、何があったのか。
雅人はいくつかの可能性を思い浮かべたが、さらに泣き出した絢乃を前に、理性は一瞬で吹き飛んでしまった。
・・・ダメだ、と思いつつも止められなかった。
絢乃の頬の感触、唇の感触、抱きしめた時の体の感触・・・。
絢乃は明らかに戸惑っていた様子だったが、雅人は激情の赴くまま、唇を重ねた。
唇を重ねながら、心の片隅で無意識のうちに思っていた。
───これで忘れられる、と・・・。
この想い出とともに、この想いは自分の心の奥底に沈めてしまえばいい。
・・・絢乃が自分に対して特別な想いを抱いていないなら、諦められる。
このまま絢乃には何も言わず、想いを殺して縁談相手と結婚する。
この切ない想いも、いつか過去の記憶へと変わっていくだろう。
そう自らに言い聞かせた。
けれど、今日・・・。
絢乃は突如、自分の前に現れた。
自分に会うために。