蜜愛シンドローム ~ Trap of Masato ~
「お前が『婚約者』だということはもう家の者には話してある。婚約者であれば、苗字で呼び合うのはおかしいだろう?」
「は、はあ・・・」
「『敵を欺くにはまず身内から』だ。お前も俺のことは雅人と呼べ。わかったな?」
雅人の言葉に、絢乃はぽかんと口を開けた。
・・・いや、さすがに呼び捨てはちょっと・・・。
あともう少しで辞めてしまうとはいえ、雅人は上司だ。
幾ら何でもそれはできない。
絢乃はぶんぶんと首を振り、雅人を見た。
「北條さん! さすがにそれは・・・」
「『雅人』だ」
「・・・っ」
絢乃は目を白黒させた絢乃を、雅人はどこか楽しげな目で見ている。
・・・眼鏡の奥の、涼やかな二重の瞳。
会社ではめったに見せない、柔らかい笑顔。
絢乃は思わず魅入ったように見つめていたが、やがて雅人が自分をからかっていることに気が付いた。
少しムクれた絢乃に、雅人はくすくすと笑いながら言う。