蜜愛シンドローム ~ Trap of Masato ~



───30分後。

絢乃は鏡に映る自分自身の姿を、ぽかんと見つめていた。

あれから3人がかりで化粧だの髪結いだの着替えだのをさせられ・・・

そして今、鏡の中には自分自身とはとても思えない着飾った女が映っている。

突然のことに何も言えない絢乃に、家政婦の一人が声をかける。


「まるで見違えるようですわね。お綺麗ですよ、絢乃さま」

「・・・」


絢乃さま、って・・・。

自分は『仮』の婚約者です、と思わず口から出かかったが、それを言ってしまってはまずい。

絢乃が身に着けているのは、淡いピンクのシャンタンワンピースに白のボレロ、そして首元にはシンプルなシルバーのネックレスが掛かっている。

髪は横髪を後ろで結い上げられ、残りの髪は後ろに流している。

髪に飾られたピンも、耳に付けられたイアリングも、手首に付けられたブレスレットも・・・

明らかに高級品だと分かるような品物揃いだ。

絶対に落とさないようにしなければ、と絢乃は内心で思った。


「久しぶりにやりがいがありますわ~。夏子様が葉山の別荘に行かれてしまってからは、このお屋敷に女性の方が来ることもなくなってしまって・・・」

「え、そうなんですか?」


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