蜜愛シンドローム ~ Trap of Masato ~
2.予期せぬ事態
13:45。
JR有楽町駅を出た絢乃は、考え込みながら帝国ホテルへの道を歩いていた。
・・・つい勢いでここまで来てしまったが・・・。
帝国ホテルに行っても、雅人に会えるかはわからない。
そして会えたとしても、何をどう聞けばいいのかわからない。
絢乃はまだ、雅人自身の口から辞めることを聞いたわけではない。
それなのに聞いてしまっていいのかという疑問も湧き上がる。
けれど・・・。
絢乃は帝国ホテルのロビーに入り、辺りを見回した。
さすが帝国ホテルなだけあり、とても格調高い雰囲気だ。
ロビー正面の階段の前には色とりどりの花が活けられており、階段の赤い絨毯や大理石の壁と相まり、優雅な雰囲気を漂わせている。
結婚式の招待客だろうか、ロビーラウンジには着飾った人々がティーカップを片手に穏やかに談笑している。
・・・格好からして、場違いだったかもしれない。
とロビーラウンジを見渡した、その時。
上品な濃紺のスーツを身に着けた長身の男性が、入口の方から姿を現した。
きっちりと整えられたビジネスショートの黒髪に、銀縁眼鏡。
いつも会社で身に着けているスーツより幾分スタイリッシュで、スーツに合わせ、薄青のボタンダウンのワイシャツを身に着けている。
───普段の会社での格好でも、大人の男という感じで格好良いと思ってはいたが・・・。
はっきり言って、思わず目を奪われる格好良さだ。