蜜愛シンドローム ~ Trap of Masato ~
史人はにこりと笑い、ゆっくりと踵を返した。
絢乃は今の史人の言葉に、心の中にモヤモヤしたものが湧き上がってくるのを感じた。
『愛美』って・・・。
雅人は史人の背を見つめながら、小さなため息をつく。
「愛美は叔父の娘で、俺にとっては従妹にあたる。今は北條商事で秘書をしている」
「・・・そうなんですか・・・」
「叔父は愛美を俺の婚約者にしたがっていたようだが、愛美は20歳だ。さすがに10歳も下の従妹に対してそんな気にはなれん」
雅人はため息交じりに言う。
しかし絢乃は、心の中に黒いものが広がっていくのを感じていた。
20歳であれば、雅人を恋愛対象として見ることも十分あり得るだろう。
などと思っていた絢乃の顔を、雅人はちらりと見、続ける。
「俺にとっては愛美は妹のようなものだ。・・・お前が従兄の慧君を実の兄と思っているように、な」
言い、雅人はどこか鋭い目線で絢乃を見る。
───絢乃の心の奥底を探るかのような、その視線。