蜜愛シンドローム ~ Trap of Masato ~
絢乃は歩きながら、この間会った武人の姿を思い出した。
雅人の祖父、しかも北條グループの最高権力者に『仮の婚約者』であるとバレてしまった以上、雅人から終わりを告げられるのも時間の問題だろう。
・・・最初から、わかっていたことだ。なのに・・・。
それを思うと、心が張り裂けそうに痛む。
自分は、少しでも雅人の役に立ったのだろうか。
・・・であれば、嬉しい。
それだけで満足したいのに、心は悲鳴を上げる。
雅人はこれから、正式な婚約者を探し始めるのだろう。
絢乃のことは忘れて・・・。
もう、『仮の婚約者』としての仕事は終わっている。
であれば、終わりを告げられるのを待つより、こちらから言ってしまった方がいいかもしれない。
それに、仮とはいえ『婚約者』として扱われるのは、今の絢乃には辛すぎる。
いくら優しくされても、いつかは終わるとわかっているからだ。
例えその場ではそれを忘れたように振舞えたとしても、自分の心は騙せない。
自分の心を騙せればどれだけ楽か・・・。
けれど絢乃には、そんな芸当はとてもできない。