蜜愛シンドローム ~ Trap of Masato ~



絢乃は建物の陰に入り、携帯を取り出した。

この時間なら、雅人ももう役員会は終わっているはずだ。

雅人のアドレスを表示し、電話を掛ける。

やがて、通話口の向こうで聞きなれたバリトンの声がした。


『・・・絢乃か? どうした?』


───絢乃を気遣う、優しい声。

いつも絢乃を導き、支えてくれた、頼もしい声。

絢乃はじわりと視界が滲むのを感じながら、もう終わりにしたい旨を雅人に告げた。


・・・しばしの沈黙の後。

電話越しで、雅人がため息交じりに言った。


『・・・わかった。お前には俺もいろいろと助けられた。礼を言う』

「いえ、もともと私が・・・」

『だが、あとひとつ頼みたい仕事がある。・・・これで最後だ』


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