蜜愛シンドローム ~ Trap of Takumi ~



澤田の言葉が何度も頭の中に響く。

───絢乃が、結婚?

衝撃のあまり呆然とする卓海に、澤田は畳み掛けるように言う。


「秋月も適齢期だからな。いつ何時、結婚の話が出てもおかしくないとは思っていたが」

「・・・」

「今のところ退職する気はないようだが、子供ができたらそういう可能性もあるだろうな。秋月の技術者としての能力を考えると惜しい気もするが・・・」


澤田は呟くように言う。

・・・が、卓海の耳には既に澤田の言葉は入っていなかった。

それから二言三言、澤田を言葉を交わして部長室を出たが、何を話したかは全く覚えていない。


───黒い衝撃が、卓海の心を飲み込んでいく。


絢乃が、結婚する・・・。


あの笑顔も、あの声も・・・

あの照れたような表情も、卓海を見つめたあの視線も・・・

他の男のものになってしまうというのだろうか。


・・・無理だ。


絶対に、耐えられない。


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