蜜愛シンドローム ~ Trap of Takumi ~
四章
1.Trap of ...
───12月の上旬。
木曜の夕刻。
絢乃は重い足取りで運用課の部屋に続く廊下を歩いていた。
・・・と、そこに。
「あぁ、いた。絢乃ちゃん」
聞き慣れたテノールの声。
振り返った絢乃の目に、卓海の姿が映った。
少し長めの艶やかな黒髪に、大人の色気を漂わせた二重の瞳。
均整のとれた長身をグレーのスーツに包んだその姿を見ると、胸に切なさが広がる。
・・・もう、忘れたいのに・・・。
俯いた絢乃に、卓海はいつものネコ被りの優美で爽やかな笑顔を浮かべて近寄ってくる。
「・・・ちょっと話したいことがあるんだ。こっちに来てもらっていいかな?」