蜜愛シンドローム ~ Trap of Takumi ~
やはり卓海はいろいろな店を知っている。
ふむふむと思いながら頷いた絢乃の隣で、卓海はじっと前を見つめハンドルを握っている。
・・・その、どこか影を帯びた横顔。
いつ見ても端正で繊細な顔立ちだが、今日はどことなく、表情に影がある気がする。
「着くまで一時間ぐらいかかる。ゆっくりしてろ」
「あ、はい・・・」
───どうしてかわからないが、いつになく卓海が優しい気がする。
これまでは卓海が食べたいものに付き合わされてきた感じだが、今日は絢乃の好物であるグラタンの店に連れて行こうとしている。
最後だから、優しくしてくれるのだろうか・・・。
けれど、影を帯びた表情が、なぜか気にかかる。
・・・これまでは、鬼と思ってきたのに・・・
最後に優しくされると、また引き寄せられてしまいそうで怖い。
絢乃は内心でため息をつき、窓の外に目をやった。