蜜愛シンドローム ~ Trap of Takumi ~
「・・・・っ!?」
ビジネスバッグを手にした卓海の姿が、そこにあった。
艶やかな黒髪に、茶色がかった二重の瞳。
今、その瞳は驚愕で見開かれている。
───まずい。
絢乃はヒィィィと内心で叫んだ。
最悪だ。
凍りついた絢乃の視線の先で、卓海の唇がニィと歪む。
・・・その、性悪にして凶悪な微笑み。
しかし角度のせいか、その笑顔は絢乃にしか見えていない。
慌てて橋本さんから離れた絢乃の前に、つかつかと卓海が歩み寄ってくる。
「どうしたの、絢乃ちゃん。気分悪いの?」
「い、いえ・・・その・・・っ」
「気分悪そうだから、部屋まで送っていくよ。さ、おいで?」
卓海は強引に絢乃の肩を掴み、ぐいぐいと部屋の外へと引っ張っていく。
・・・その、物凄い力。
橋本さんは二人の姿をぽかんと見つめている。
絢乃は内心で戦きながら、卓海に引かれるがまま、部屋を飛び出した。