蜜愛シンドローム ~ Trap of Takumi ~
けれど・・・
卓海にしてみれば、自分はただの道具の一つだ。
壊れたらすぐに替えのきく、どこにでもある道具の一つ。
・・・卓海が楽しむためだけの、道具。
前はそれをとても嫌だと思ったのに、今は・・・道具の一つであることが、耐えられない。
きっと卓海は、自分を道具だと思っているから、ああも気軽にキスしたりするのだろう。
キスなど、卓海にとっては特別なことではないのかもしれない。
けれど絢乃にとっては・・・
卓海のキスを受けるたびに、心が軋むように痛む。
───いつから、こんな風に思うようになったのか・・・。
わからない。けれど・・・。
頭が混乱し、冷静に考えることができない。
このままマンションに戻ったら、慧に心配をかけるだろう。
もう少し落ち着いてから帰った方がいいかもしれない。
絢乃は夜空を見上げながら、ぐいと涙を拭った。