蜜愛シンドローム ~ Trap of Takumi ~
もっと他に言いようがあったのかもしれない。
絢乃は道具ではあるが、今は自分の部下でもある。
あれでは絢乃との間にさらに亀裂が出来てしまう。
自業自得とわかっていても、底知れぬ不安が卓海を襲う。
───どうすればいいのか、いくら考えてもわからない。
それにしても・・・。
絢乃はなぜ、自分に相談しに来なかったのか。
先週、絢乃に『まずは自分で考えてみろ』と言いはしたが、絢乃が相談しに来たら、自分は相談に乗るつもりでいた。
それに、昼の社食も・・・。
絢乃が『一緒に食事をしてほしい』とさえ言えば、自分は絢乃と食事をとるつもりでいた。
しかし絢乃はいつも『わかりました』と言い、卓海を引き留めることはしない。
・・・とても事務的で淡々とした、その態度。
それを見るたび、卓海の胸に鈍い痛みが走る。
絢乃以外の女と取る食事は、まるで砂を噛んでいるような気分になる。
絢乃と一緒に食事をとることが、これほどまでに特別なことになるとは、卓海自身思ってもみなかった。