蜜愛シンドローム ~ Trap of Takumi ~



どうして絢乃は、自分に何も言わないのか。

───なぜ、自分に何も望まないのか。

土曜も、絢乃が会いたいとさえ言ってくれれば、卓海は会うつもりでいた。

けれど絢乃からは何も連絡はなかった。

道具である絢乃が自分から卓海に何か要望を言うことは、許されないと思っているのかもしれない。

けれど・・・。


───理不尽なことをしていると、自分でもわかっている。

けれど卓海がどれだけ理不尽なことをしても、絢乃は何も言わずに受け入れる。

まるで、卓海のことなど何とも思っていないかのように・・・。

それを思うと、耐え難い痛みが卓海の胸に広がる。


こんなに思い通りにならない道具など、手放せばいいと思う。

なのに・・・。

手放そうと思っても、無意識のうちに握りしめてしまう。

きっと頭ではなく心で、それが自分にとって不可欠なものだと感じているのだろう。

けれど、いくら握りしめても、それは指の隙間からするりと逃げていく。

いくら強く握りしめても・・・。

捕まえようとすればするほど、卓海の指の間をすり抜けていく。


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