【砂漠の星に見る夢】
「さあ、イシス、行こうか」
そう言ってクフがイシスの肩を抱いたまま背を向けた瞬間、ネフェルは彼女の首にエメラルドのネックレスがかけられていることに気付き、「……あれは」と全身を水で打たれたような衝撃を覚えながら、そう漏らした。
あのネックレスは……あの時の……。
メンフィスの宝飾店でイシスが選び、二人きりになった時に彼女の首にかけたネックレス。
あなたの瞳の色にそっくりでとても美しい、と笑っていたイシス。
あのネックレスをまだつけてくれているなんて……。
16の誕生日、何の前触れもなく突然姿を消したイシス。家はもぬけの殻だった。
前日に『明日が楽しみ』と抱きしめ合ったばかりだというのに不可解でならなかった。
その不可解さの答えは…………
「クフ!」
突然、そう声を上げたネフェルにクフは驚いて振り返り、その迫力に身体を硬直させた。
ネフェルは今まで誰にも見せたこともないような怒りの形相を見せ、
「そういうことか!そういうことだったんだな!」
とホールに響き渡るような大きな声でそう叫んだ。
すべてを悟った様子のネフェルに、「イシス、行こう!」とクフは怖気づきイシスの手を引いて逃げるようにホールを出て行った。
ホールはざわめきを見せ、ターナは何も言わずに我が子ヘムオンをしっかと抱きしめ、ギュッと目を閉じた。