【砂漠の星に見る夢】
「お部屋に戻りましょう。ヘムオン様も母君であるあなた様をお待ちしています」
「イシス様、今宵はこれで失礼致します」
侍女たちは興奮するターナを押さえつけるようにして部屋を出て行った。
嵐のように過ぎ去った来訪に、イシスは脱力したようにソファーに身を委ね、額を押さえた。
大柄な番人カイは「失礼します」と部屋に飛び込み「お怪我はございませんか?」と跪いた。
イシスは「大丈夫よ」と簡単に答えた後、カイの腰に掛けている剣を見て口角だけを上げた。
「ねえ、カイ、お願いがあるの」
「なんでしょうか?」
「その剣で、私を刺してくれないかしら」
そう言って自嘲気味な笑みを見せたイシスに、
「そんなこと……」とカイは目を見開いた。
「ごめんなさい。できるわけないわよね。そんなことしたら、あなたがクフに殺されちゃうものね。……いっそターナ様が私を刺してくださったら良かったのに」
ゆっくりと立ち上がり、窓の外を眺めた。
「もう……疲れちゃったわ」
そう漏らしたイシスに、カイは目を細めた。
「愛してもいない男の妻になり、終わりのない監禁生活。ネフェルのことを想うことだけが私の救いだったのに……これからはそれも許されなさそうね」
イシスは誰に言うわけでもなく、そう呟いた。
カイは苦々しい表情を浮かべ何も言えないまま、イシスに一礼したあと部屋を出て、苦しい想いを抱きながらいつものように扉の前で『番人』を勤めた。