【砂漠の星に見る夢】
そんなイシスの耳に、カンカンと鉄を打ちつける音が終始届いていた。
この音は町のお祭り騒ぎではなく、裏の作業場で父が鉄を打ちつける音だ。
鍛冶屋の音。鉄がはぜる音。
イシスはこの音が好きだった。
炎にくべられた熱い鉄を打ち、いつしか美しい剣へと変化していく工程を見るのも好きで、
自分も鍛冶屋の仕事を手伝いたかったが「女は駄目だ」といって一向に手伝わせてくれる気配はなく、常日頃不満に思っているほどだった。
父は数人の弟子と共に、日が暮れるまで家の裏の小さな作業場で剣作りに精を出す。
父の仕事はとても評判がよく、時に宮殿の仕事を請け負うこともある。
しかし特に豊かな生活をしているわけではなく、ごく一般的な庶民の生活をしていた。
住居はどこにでもある飾り気のない日干し煉瓦で作られた平家で家の中央に居間、西側に両親の寝室と客間があり、イシスの部屋は東端にある。
部屋の中はベッドに机、そして木の雨戸がつけられた大きな窓があるだけのアッサリしたものだ。