【砂漠の星に見る夢】
息をつくヘレスの元に、ファラオの侍女が訪れ、
「失礼いたします。ヘレス様、ファラオがお呼びです」
と跪いてそう告げた。
「ほお、ファラオが……」
ヘレスは満更でもないような表情を浮かべ、身支度を整えたあと数人の侍女と共に部屋を出る。
侍女を従えて颯爽と大きな通路を歩いていると、反対側からネフェルが姿を現し、ヘレスは顔をしかめた。
第二王妃よりも第一王子の方が身分が高い為ヘレスの侍女達はすかさず道を開けて跪き、ヘレスは顔を引きつらせ不本意ながらも、ネフェルに小さく会釈する。
「これは、ヘレス様、ご機嫌麗しゅうございますか?」
笑みを湛えながら優雅に頭を下げたネフェルに、ヘレスは面白くなさを抱えながらも、
「ええ、そなたは?」
と極上の笑みを見返す。
「もちろん、今日はヘレス様のおかげで、いい運動をさせていただきました」
その言葉に、ヘレスは虚を突かれたように目を見開きながらも「……何のことでしょう?」と、その動揺を表に出すことなく、口角を上げた。
ネフェルは小さく笑ったあと、
「あまりにお痛がすぎると、私も手を打たなければなりませんということですよ」
と顔を覗き込み、冷ややかな目でヘレスを見据えた。
その眼光の鋭さに、全身に震えを感じたヘレスは言葉を発することができずに、その場に立ち尽くす。
ネフェルはまた屈託のない笑顔を見せ、「それでは」と歩き去り、
ヘレスはネフェルの背中を見送りながら、
あのガキ……絶対に許すものか!と拳を握り締めた。