Yucky☆マニア~Special Fan book~


髪から香る甘い匂い


鼻先をくすぐる、懐かしい香り。




そして…首を少しだけ横にやると
俺の顔のすぐ隣には大人びた、美織の横顔がある。



絡み合う視線
言葉もなく見つめあう二人




美織の瞳の中にはとても弱くて
誰よりも情けない、俺がいる。



――最悪……。



こんな姿
コイツにだけは見られたくなかったのに。


惚れた女に弱いところを見られて喜ぶオトコなんていねぇだろ……





でも、虚勢を張れるような元気もなくて
悪態をつけるような元気すらなくて


でも自分が情けなくてたまらなくて
ただ隣に座るアイツから視線を反らす。





情けない
いたたまれない
渦巻く負の感情を止められなくて



どうにもできない
乗り越えられないスランプが歯がゆくて


落ちていくしかできない、そんな自分に吐き気を覚えて





今までの人生の中で
最高に自分が嫌いになった瞬間に隣にいたのは、不幸の元凶の天然悪魔。






悪魔はいつも俺を見るとゴキブリでも見てるような、そんな顔をしていたけれど、今日は少し違った。



怯えた顔じゃなく
蔑むような顔じゃなく
あの頃と同じように
優しい瞳で俺を見つめてくれている、カワイイ悪魔。



そして俺の隣にちょこんと座ったまま
天然悪魔は『頑張れ』と言った。



弱ったり悩んだりしてるキョウちゃんはキョウちゃんらしくない、と俺の背中を押してくれた。



その瞬間
俺はコイツには敵わない、と思った。



ばかじゃねーの?コイツ。




――あ~~~、好きだ。




やっぱり好きだ。




あんなにコイツを傷つけた俺なのに。
何もなかったかのように、こうやって俺を包んでくれる、優しい俺の悪魔。



ずっとずっと、俺はこの笑顔に助けられてた。



ガキの頃から、ずっとずっと
美織のこういう優しさに
何度も何度も救われてた。





そしてその度に思い知るんだ。


自分がどれほど桐谷美織という女に溺れているか――……


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