手に入れても
自分のミスのせいで、仕事が終わったのは夜の8時を回ったころだった。
そこそこ混んでいる電車に揺られ、すでに閉店しているいつものスーパーの前を通り過ぎる。今日はタイムセールがあったのに間に合わなくて悔しい。
そういえば、ここで声をかけられたんだ。あれは確か金曜のことで、そのあと……。
自然と足が向いていたのは、あのとき訪れた小さなバー。あのときと違うのは、扉にかけられている「open」のプレート。確か前は営業時間前だった気がする。
来客を知らせる鐘が控えめに鳴り、中に足を踏み入れる。客はまばらで、だけどやっぱり前も感じた穏やかな雰囲気が私を落ち着かせてくれる。
「いらっしゃいませ……あ、朋ちゃん、だっけ?」
「あ、ナガサワさん…こんばんは」
1度会っただけなのに名前を覚えていてくれていることが嬉しかった。たったそれだけのことで、彼に近づけた気になれる。
「何飲む?」
「あ、じゃあペリーニを」
「おっけー」