手に入れても



「あいつなら来てないよ」

「え、あ、そういうつもりじゃなくて…」

「昨日は来てたけど」

「……」

ナガサワさんは不思議な人だ。いつもニコニコとしていて、私の気持ち全部が見透かされていそう。

この人の前に立たされた人は、きっと素直でしかいられなくなる。


「あの…」

「ん?」

「貴文くんって、」

「俺?」


いきなり背後で声がして驚いて振り返ると、ずっと恋焦がれていた人がいた。走ってきたのか呼吸が乱れ、髪も少し崩れている。1か月ぶりに会って、ああ、やっぱりこの人のこと好きだと確信する。

彼は少し怒ったような顔をしていた。
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