手に入れても



「貴文くん」

「なに」

「大学のとき付き合ってた彼女は?」

「はは、いつの話してんの。とっくに別れてるよ」

「じゃあ、今は?」

「……なんでそんなこと訊くの」

「…大事なことだから。私にとって」


彼の握る力が少し強くなった気がする。たったそれだけですごく満たされるのに、もっと、そう思ってしまう欲張りな自分がいる。

今すぐ彼の目の前に行ってキスがしたい。あ、でもその前に表情をしっかり見ておかなければ。キスをした後もどんな表情をするのか見たい。


いろいろな欲望が次々と溢れ出してくるけれど、その前に言わなければいけないことがある。



「すき、です」

握っていた手をくんっと引っ張って、二人の足を止める。ああ、こっちを見てほしい。その顔が見たい。早く。早く。
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