手に入れても
「はぁ…」
ため息をつかれて、体がこわばる。早く、オーケーを出して。そうしたら、キスをするの。
「俺ばっかり余裕ないの、ちょっと悔しい」
どういうことか分からず、沈黙を守る。誰が見たって、余裕がないのは私の方だ。
不意に手を引かれて、私は小走りになる。ヒールが走りにくい。
「どっち?」
「え?」
「朋ちゃんち。この辺やろ?」
「あ、うん。…そこの白いアパート」
彼は、私が指さした方に進路を変える。え、うちに来るの?
こんな状況で頭をよぎったのは、部屋片付いていたっけ、なんて的外れなこと。