手に入れても
部屋の前に到着し、鍵を開けようとカバンを漁る。こういうときに限ってなかなか目当てのものが見つからない。
「俺も朋ちゃんすき」
え、この状況で今それ言う?
信じられないと振り返ると、案外真剣な表情がそこにあって少し怯む。その顔、駄目だ。直視できない。
「えと、取りあえず中に…」
鍵を回し、扉を開けようとすると、後ろから止められる。私、きっと今すごく変な顔をしてる。振り向けない。
「初めて会ったときのこと、覚えとる?」
「…なにを?」
「ほら、バイトのメンバーで飲んでて、たまたまそこにいた朋ちゃんを百々ちゃんが俺らに紹介してくれて。で、俺話しかけてるのに、俺の目見てくれないの。あれは傷つくよね。でもすげー可愛くて。でも連絡先すら聞けなくて、会うときだって百々ちゃんを介してやし。で、割とすぐにそのときの彼女と別れて」
ずっと、朋ちゃんのこと想ってた。
後ろ髪をすくわれる。髪の毛にまで神経が通っているかと思うくらい、どきどきした。