手に入れても




「あのとき、偶然やと思っとる?」

「え…」

「百々ちゃんに聞いた。どこに住んでるか」


だんだん心拍数が上がる。体の後ろ側がとても熱い。


扉を押さえつけている彼の手を左手で降ろし、右手で扉を開けた。彼を引っ張るように中に招き入れ、さっきからずっと考えていたことを実行しようと、彼の両頬を包んだ。


「あ…」

「…なに」

「電気つけないと顔見えない」

「は?」


靴を脱いで奥に進み、電気をつける。そのおかげで見慣れた部屋が露わになったとき、後ろから体温に包まれた。首筋に温かい息がかかり、その温度とは裏腹に背筋が震える。

取りあえず、顔が見たい、と思った。
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