手に入れても
「え…」
「やっぱ朋ちゃんや。久しぶり」
「…貴文くん?」
懐かしいイントネーションで優しく話しかけてきたのは大学の同級生だった。
誰かわかると途端に心臓が正しく機能し始めるなんて、都合がいい。
スーツを着てその背の高さが際立っているその姿は5月の夜の爽やかな空気がよく似合う。
「俺のこと忘れるとかなしだよ。そりゃ大学じゃあんまり会わなかったけどさ」
「標準語似合わないね」
「朋ちゃんもね」
この笑顔が好きだった。
共通の話題を一生懸命探して、笑ってもらえるととても幸せで。いつもポケットに手を突っ込んで話す貴文くんのその手に何度触れたいと思ったか。
――――貴文?彼女いるよ。
報われない恋がひとつくらいあってもいい。結局、大学の貴重な4年間はただ一人を思い続けていた。