手に入れても



それが、どうして、今。
社会人も3年目に入り、ようやく心に余裕が出てきたところで新しい恋を探してみようとひそかに思っていたのだ。
なぜ、こんなときに彼と再会させるのか。神を信じない私は誰を恨めばいい?


「こっちに就職してるとは聞いてたんだけど、偶然会えるなんてね」

「こないだ百々がこっちに遊びに来てたよ」

「ほんと?俺にも連絡くれればいいのに」


私は文系、貴文くんは理系。普通だったら知り合うことのないふたりをつなげたのが百々だった。私の親友かつ貴文くんのバイト仲間である。

大学時代はよく3人に加えてそれぞれの友だちと大勢で遊びに行ったりもした。



「だって…」


私はあなたの連絡先なんて、知らない。
訊く勇気すらなかった。

だって。少しでも気があるそぶりを見せたら、離れていくかもしれないから。
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