手に入れても
小さくうなずいて了解した私を、彼は小さなバーに連行した。まだバーの時間には早いのではと思っていたが、どうやら彼の知り合いのお店らしい。従業員と親しげに言葉を交わしている。
「朋ちゃん。こっち」
手招きをする彼に近寄ると、その従業員を紹介された。ナガサワと名乗る彼は高校時代の友人らしい。高校卒業と同時に上京し、小さいながらもいくつかのお店を経営するやり手だそうだ。
人のよさそうな目が印象的だ。
「矢口朋です」
「よろしく。貴文から時々話は聞いてるよ」
「え?」
「おい、余計なこと言うなよ」
「はいはい」
彼が私の話をしていることに驚いたが、大学時代の話をするときにちらっと私の名前ぐらい出てもおかしくないだろう。