手に入れても






都会の特徴のひとつは駅が多いこと。ふたりきりの時間は無情にもすぐ終わる。


「ここでいいよ。ありがとう」

「あ、ちょっと待って」

「?」


カバンの中を漁って、目の前に差し出されたのは1枚の名刺。反射的に受け取る。

「そういえば俺、朋ちゃんの番号知らないんだよね。そこに俺の携帯書いてあるし、いつでも連絡して」


じゃあ気を付けてね。

爽やかに手を振って来た道を引き返していくその背中を見て、過去の恋心が再熱したことを認めざるを得なかった。


「『いつでも連絡して』なんて、社交辞令に決まってる…」



沢木貴文


名前だけでこんなにも動揺させるなんて、卑怯だ。
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