手に入れても






それから1か月。あの番号に電話をかける勇気もなく、事務的に仕事に打ち込み、週末は干物になるという日々を送っていた。
彼は私の番号を知らないから向こうからかかってくることもないし、とにかく私はあのドキドキを鎮めようと必死だった。彼に恋をしても、最終的に傷つくのは私ひとりのような気がして、先に進むことを恐れている。


それでも、仕事中も家にいても何をしても、頭に浮かぶのは彼のことばかり。4年間彼を思い続けた私の心は、彼の思い出し方を都合よく記憶してしまっている。


「矢口ー、ここ数字間違えてんだけどー」

「えっ、あ、すみません、すぐ直します!」

「お前最近ぼーっとしすぎー」

語尾を伸ばす間抜けな話し方をする部長に注意され、自己嫌悪になる。仕事に影響させるなんて最悪。
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