Special
◆変わる瞬間(とき)◆

月灯りの夜に



私はレンの後ろをついて歩いていた。
暗い路地をコツコツと足音だけが響いている。


「れ、レン。あの、病院は?まだ退院じゃなかったよね?戻った方がいい…」


少し後ろからそう話し掛けたらレンが急に立ち止まった。
それに合わせて、距離をそのまま保って私も立ち止まる。


「・・・レン?」
「バカか。本当に!こんな時まで俺の心配なんてしてんじゃねぇよ」


そう言って振り返った時のレンは、今にも泣きそうな顔で――――。

そんなレンに、私は言葉よりも早く、レンとの距離を詰めてレンを抱き締めた。

力の限り、強く、強く。


「だって・・・本当に大切だから」
「・・・もう近づくなって言ったのに・・・聞きやしねぇ」


そういうレンの手は私の頭をポンポンと軽く撫でていた。
そんな穏やかな雰囲気に、ゆっくりと顔を上げてレンを見てみた。

月明かりがレンを照らしてより一層柔らかい印象づけるその優しい顔に、私の心はきゅうっと締め付けられた。


「―――いくぞ」







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